Tida-Tiger

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『成功したオタク』の悲劇:犯罪者のファンになって

オタクの中で話題の『成功したオタク』、見てきました~!

alfazbetmovie.com

 

あらすじ(公式サイトから引用)

あるK-POPスターの熱狂的ファンだったオ・セヨンは、「推し」に認知されテレビ共演もした「成功したオタク」だった。ある日、推しが性加害で逮捕されるまでは。
突然「犯罪者のファン」になってしまった彼女はひどく混乱した。受け入れ難いその現実に苦悩し、様々な感情が入り乱れ葛藤した。そして、同じような経験をした友人たちのことを思った。

好きだから幸せだった。好きだから苦しい。

信頼し、応援していたからこそ許せないという人もいれば、最後まで寄り添うべきだと言う人もいる。ファンであり続けることができるのか。いや、ファンを辞めるべきか。彼を推していた私も加害者なのではないか。かつて、彼を思って過ごした幸せな時間まで否定しなくてはならないのか。

「推し活」が人生の全てだったオ・セヨン監督が過去を振り返り傷を直視すると同時に、様々な立場にあるファンの声を直接聞き、その社会的意味を記録する。「成功したオタク」とは果たして何なのか?その意味を新たに定義する、連帯と癒しのドキュメンタリー。

主人公であり監督であるオ・セヨンは、チョン・ジュニョンのファン。
中学生の頃に彼と出会い、ファンになった。イベントに民族衣装をまとって行って認知され、テレビに出演して推しへの手紙を読む機会も得た『成功したオタク』だ。

しかし、チョン・ジュニョンは性加害で逮捕されることとなる。

事件をきっかけに、オ・セヨンは自分や他のオタクの「推し活」を振り返っていく。

チョン・ジュニョンが逮捕されるにいたった加害行為は(おそらく二次加害を防ぐために?)、本編中では明確に描写されていない。以下の中央日報の記事が詳しいので、知りたい人は参照して欲しい。

歌手チョン・ジュニョンさん、V.Iさんのチャットメンバーと明らかに…盗撮映像公開しながら「俺はクズ」 | Joongang Ilbo | 中央日報

 

 

このあとは個人的な感想を書いていくので、大丈夫な人だけ読んでもらえたらと思います。

まっっっったく好意的でない感想です。

 

 

 

 

正直な感想

ドキュメンタリー映画としてはかなりつまらない部類です。

俯瞰して描くというよりは表層的。必要な画・構図のイメージも、それが撮れる瞬間を待つ胆力もない。ただだらだらとオタクがしゃべる様子を垂れ流すだけで、飽き飽きする。ドキュメンタリーだからって、素材のままお出ししていいわけじゃないからな?!

それでも今、この瞬間に、推しの行いによって傷ついたオタク、自責の念を抱くオタクを記録したという点だけは評価出来る。

日本にも同じ境遇のオタクがたくさんいます。ずっと安泰だと思っていたところが崩れて、安心して推す・ファンでいられない状況にあるのも事実。
そんな不安にさいなまれている、いろんな場所にいる沢山のオタクが、同じ立場のオタクの語る言葉を聞いて、自分の心を整理するという、内省のきっかけになるのはとてもいいかなと思いました。

ただ映像作品としてはマジでつまんないです。オタクがオタクを求めて見る分にはいい。

 

個人的に感じる問題点:嫌いなタイプのオタク

主人公・監督はイベントに民族衣装をまとって行って認知され、テレビに出演して推しへの手紙を読む機会も得た『成功したオタク』。

この時点で「あっ、しまった。嫌いなタイプのオタクだ」となりました。

完全に個人的な感覚・価値観での感想ですが。こういうオタクに対して、どちらかというと自己愛の方が強いのでは? という疑念を抱いてしまいます。

本当に推しが好きだったのか?
自分を特別にしてくれた人だから好きだっただけじゃないのか?
その推しはマクガフィンではないか?

そういう自己愛に根ざした推し活ではという疑念がある為、自分自身をクローズアップしてドキュメントしていく手法も、どこか薄ら寒く…自分を見せたいだけに感じられてしまい、全体を一、二枚のベールを隔てた、自己投影や内省のきっかけに出来ない位置から見てしまいました。

正直なところ(韓国語でも、「正直」はソンジキ/솔직히と言っていて、用法も同じく、語頭についていたのは面白かった)、まあ別にそれでも推しは推しだろ!!というところがあるので、ただ純粋に自分の好みか否かでしかないです。

こちらの記事では『推し、燃ゆ』との相関も書かれているのですが、そちらの作品も「こいつ自分の話しかしねぇな…」と感じたので、つまりはそういうことです。

crea.bunshun.jp

 

表層的なドキュメンタリー

オタクたちの描写の薄さ

演出に作為がなく、必要な編集やカットバックがないのはもう諦めるとして。

オタクたちへのインタビューも、「オタクとしての自分」しか見せていないため表層的に感じられました。

もちろんこの作品は、オタクたちがどう感じ、どう考え、いまどこにいるのか…という所に焦点を当てた作品なので、そこを重要視するのは大事なことだと思います。

ただ人間には日々の生活があり、感情があり、その中に、オタクをするという選択肢があるはずです。作中でいくつも「この推しへの感情は何故なのか」を問う言葉が出てくるのですが、それ以前に「どうしてこの人を推しにしたのか」「人生の中でどんな位置づけだったのか」という根っこの部分も映していかないと、表面的な記録にしかならないのではないでしょうか。

監督自身も、自分が何故推しを愛していたのか、成功したオタクでありたいだけだったのでは? というような自問自答がなく、自分をメインにしている割に、自己開示がないのが気になりました。

オタクが複数出てくる為、その中で浮き彫りにされていく感情や立場の違いはあるので、その部分は多少厚いです。犯罪者として嫌悪する感情も、好きだった気持ちを思いだしてしまう様子も、見えないところで誰も傷つけずに幸せになって欲しいという感情も、生の声が聞けてよかったなと思いました。

ああ。あと(二次加害を防ぐためにも難しいとは思うのですが)、Fanaticと名付けるのであれば、推しを否定する側だけでなく、強く肯定する側(犯罪はしていないと信じている側)の意見もきちんと撮った方がよかったのではと思いました。

なんか全体的に、身内のオタク同士のだべりを「わかる~わかるわかるわぁ~それなぁ~」と撮っているような印象です。

 

韓国社会における性加害の状況

(二次加害を防ぐためにも仕方ないとは思うのですが)(これ言うの何度目だ?)
性加害の詳細とか…その辺…すごい…ふわっとしてて…! 副読本がないと難しくない…?!

たまたま図書館で借りた『n番部屋を燃やし尽くせ デジタル性犯罪を追跡した「わたしたち」の記録』を読んでいたので、チョン・ジュニョンの行った犯罪と似た部分を感じていました。

時系列としては

2015~16年 チョン・ジュニョンたちによる性加害事件発生
2018年後半~ n番部屋が動き始める
2018年11月24日 バーニング・サン事件
2019年3月21日 チョン・ジュニョン逮捕
2019年8月 n番部屋についての初の報道(追跡団火花による)
2020年1月17日~ n番部屋事件についての報道が加速
2020年3月3日 性暴力犯罪の処罰等に関する特例種籾一部改正法律案(対案)議決
※しかし1月15日に出された、国会国民同意請願(10万人が署名した)にある警察の国際協力捜査、デジタル性犯罪担当部署の新設、デジタル性犯罪に対する量刑基準の上方修正、捜査機関の2次加害防止を含む対応マニュアルの作成はほぼ盛り込まれず
2020年5月12日 チョン・ジュニョン控訴審 懲役5年

…という感じの為、推しによる性加害行為に対する感情の熱さが、バーニング・サン事件&n番部屋事件に端を発した世間の加熱の状況と重なるはず…(完全にニュースを見ていないオタクが何人もいたわけでなければ)

ですが、全く本編に出てこないんですよね。V.Iの関わった2018年のバーニング・サン事件も同様に、「同じコトした推しがいたね…」程度の匂わせでしかない。

※映画パンフレットを買えばもしかすると書いてあるかもしれない。

なんだかそういう、現実を切り取る為に必要な情報が欠けている部分もまた、表層的・表面的な記録でしかないな…という印象を強めました。

 

もしも自分の推しが…

これについてはやっぱり考えましたね。

もしも自分の推しが間違いを犯したら…

最後まで信じることが出来るのか。
被害者を傷つけてしまわないか。
自分が推しを増長させたのではないか。
何を愛してきたのか。

…とりあえず、インターネットには浮上しないかもしれません。Twitter(元X)もしばらく鍵にして、アプリも消すかもしれません。
でも実はこれ、推しが結婚したときにすると決めていることと同じなんですよね。

まずはじめに、自分が抱いていた推しのイメージと、新しく判明した事実との食い違いを受け止めるための時間は作りたい。
シンプルにショックじゃないですか。良い・悪いじゃなくて。思い込みが間違っていたと知るのは、脳にとって大分大きな衝撃なんですよね。そんなときに、いろんな人の意見とか、沢山の情報に触れてしまうと、もっと脳が疲れてしまう。だからとりあえず、インターネットからは離れたい。

結婚なら慶事なので、自分の気持ちが落ち着けばそれですむのですが、犯罪だとまた難しい…。

正直なところ、一般人には本当のコトはわからないわけじゃないですか。
傍聴席に座ったところで、心のすべてを教えてくれるわけじゃなければ、行いのすべてだってわからない。すべてを知ったところで、自分の心がそれを受け入れるのか、他の可能性を信じてしまうかもわからない。

本編中で、ビープ音で名前が伏せられているアーティストが何人かいました。
彼らは不起訴処分になっている人たちです。まるで罪を犯したかのように言われていましたが、実際は不起訴なんですよね。
だからといって、罪がない、あるいはなくなったわけでなく、実際に罪を犯したのに証拠がなかった可能性もあるし、示談にして取り下げてもらった、もともと嘘の告発だったのかもしれない。

いずれにせよ私たちには知りようがない。何を信じるか、自分で決めるしかない。

結局の所…まあこれについては本編中でオタクたちも言っていましたが、推しと自分を切り離すこと、自分の得てきた経験や感情は大切にすることが大事になってくるんだろうなと思います。(自分の推しに対しては性犯罪の心配はあまりしていず、スピ・自然食品・民間療法系には気をつけてね…という気持ちでいる)

 

総括

映像作品・ドキュメンタリーとしてのクオリティはあまり高くないものの、今作ったこと、今日本で公開されたことには大きな意義があるなと感じています。

 

オタクと推しのドキュメンタリー

最後に、オタクと推しの関係を描いたドキュメンタリーで好きな作品を2つあげます。

www.mapion.co.jp

推しとファン、ファンコミュニティ、その命について追いかけたドキュメンタリー。

 

あとはTokyo Idols

www.youtube.com

今日本で見られるサイトがないかも…(YouTubeに全編転載されているのはあった)

見たときにかいた感想ブログはこちら。

Tokyo Idolsとぼくの神様 - Tida-Tiger

 

なんかもう…オタク…みんな健やかに生きてくれよな。