Tida-Tiger

好きなものだけ好きなだけ。

私の頭の中の消しゴム 村井・伊波ペア 190612 感想

拝啓 村井良大さま

演劇人としての貴方が好きです。

 

 

私の頭の中の消しゴム とは

keshigomu.info

Atok使っていると、必ず 私の頭の中の《「の」の連続》消しゴム ってつっこみが入るタイトルでおなじみ(?) Love Lettersに並ぶ、男女ペア朗読劇の老舗です。

韓国映画の日本リメイク版朗読劇です。

ストーリー(公式サイトより)

永久不滅の愛を、心に響く数々の言葉で紡ぐ珠玉のストーリー。
「朗読劇 私の頭の中の消しゴム」。
建築現場で働く浩介は、人生に絶望していた。
アパレル会社に勤める薫は、希望に満ちあふれていた。
そんなふたりが、幾多の困難を乗り越え、
ようやく結ばれたのに……。

悲劇は訪れる。

それは、「死」よりも切ない別れ。
薫の記憶が、消えていくのだ。
「・・・・・・私の頭の中には消しゴムがあるの。
 覚えていることも、これから覚えることも、全部消えてく。
 だからお願い、優しくしないで。忘れてしまうから」
若年性アルツハイマー病に冒された薫を、
浩介は、支え尽くす決意をする。
「忘れてもいい。  君が忘れたら、また今までのこと全部話す。何回でも話すよ。
 ・・・・・・俺がそうやって話す度に、薫は毎回、俺に新しく恋をするんだ」

 という感じです。

 

舞台美術、全体の流れ

舞台中央奥に扉のある、家の中を模したセット。全体的に白めのアイボリー。

上手と下手の中央よりに、それぞれ椅子が一脚ずつ。上手には小さなテーブルと椅子が二脚。下手の家の壁には付箋が貼られ、写真を入れた額がかけられています。

キャストさん達も白系の衣装を着けていて、清潔・純真な印象です。

そんなセットの中で、男性演じる浩介と、女性演じる薫が、自分自身や相手の日記を読むという形式で話が進んでいきます。

 

以前見た時の感想

ゴールデンウィーク2018、なにしてた? - Tida-Tiger

10th letter 公演概要|私の頭の中の消しゴム

加藤和樹さんと村川絵梨さんの回。11時のマチネ。

よくタイトルは聞くものの、一度も観たことがなかったので、好きな俳優さん&女優さんの回を選んでいきました。

あらすじは映画版の予告を見て知っている程度。この朗読劇を見て初めて、キャラクター設定の細かいところを知りました。

 

和樹さん

劇場による芝居のスケール感って、やっぱ違うんだなあと思いました。帝劇主演中の公演なのもあり、冒頭だけ若干切り替えきれてない感じ。でもそれよりもマイクの不調の方が気になった。

いつもイライラしているけれど、基礎スペックが高い男が格好良かった。荒々しさと男らしさ、あと愛情の表現が深くて好きだなあ。あと声が良い。声が良い。

 

絵梨ちゃん

少しずつ記憶を、そして自分自身を失っていく恐れの描き方が本当に上手で、見ていてヒリヒリしました。ある意味N2Nにも通じる。

あと前髪の一筋の落ち方で、印象がかなり変わるのが…落ちてない時はある程度通常状態なんですけど、落ちてると忘却・怒りなどが出てたりして。アレは演技なのか、演出なのか、たまたまなのか。

 

どっちの演技も好きなんですけど……キャラがちょっと好きな感じではなく。あと女が悲劇的に死んで男が生き残る系、あんまり良い印象を持ってないので。

とりあえず、見ましたよーという話。

キャストによってかーなーりー印象が変わる作品でした。

 

キャスト感想 伊波杏樹ちゃん

推しの感想長くなるし、キャスト自体二人しか居ないので、先に伊波ちゃんだけ分けて書くね!!!

 

シンプルに言うと伊波ちゃんめっっちゃ良かった…。可愛かった…。

 

薫は、建築会社社長令嬢で、オシャレで無垢で苦労がない、愛されて当然みたいな部分のあるキャラクター。
また、冒頭でカズヤさんという男性と不倫をしている描写もあるので、ちょっと…個人的には好きじゃないタイプのキャラクターなんですけど…。

 

伊波ちゃんの薫は、明るくて可愛くて、確かに愛されてしかるべきだなっていう感じがあって、好きでした。

記憶を失っていく様子や、それを恐れ悲しむ様子も、どこか愛らしさがあるだけに、より痛々しく…。浩介が薫を抱きあげた時の衝撃や、記憶を失った薫を見つけた時に言う「綺麗だった」という言葉が、真実であるように感じました。

浩介にとって誰よりも愛しく、何よりも大切にしたい存在としての薫を、しっかりと描き出していたように思います。

 

それが、今回の相方である村井さんのお芝居とうまく噛み合っていて、とても素晴らしい作品を創り上げていました。

この作品は特に、一人では創り出せないものだと思うので、いいお相手とのお芝居を観られて良かったなー!!と思いました。

 

推しへの感想の前提的なあれ

私が緊張してどうなるという話ではあるんですが(真顔)

 

村井さんが10代の頃、お母さまがくも膜下出血で倒れられ、その後記憶障害が残り、5分程度しか記憶がもたなくなっています。

yomidr.yomiuri.co.jp

これは2018年の記事。2011年9月15日の「無口に示す おかんへの愛」という新聞記事でも、同じ話に触れられています。

 

つまり、原因や詳細はことなるものの愛する人の記憶障害」という所で、この作品と、村井さんの極個人的な部分が重なるんですよね。

 

それがまーーーーーーなんか、勝手に色々考え込んでしまって。

 

自分もまがりなりにも何かを創り出す人間として。

自分自身にあまりにも近いものって創りづらいんだよなーって事を感じていました。

こう、どうしても客観性に欠けていたり、思い入れが強すぎたり、逆に乖離させてしまったり、ちょうどいい案配で創るのがなかなか難しい。自分とキャラクターとの距離感が掴みづらい。

もちろん、村井氏の方が断然プロ中のプロなので、私ほどには不器用じゃないと思うんですけれど。

村井氏は、自分とキャラの折り合いをどう付けていくんだろう、って思っていて。

 

あと、表現者かつ観客として。

旧に昔の個人的な話をするんですけど。
知り合いAが、ある事情を抱えた知り合いBに対して
「それって創作の糧になっていいですよね~うらやましい!」
と言い放って。

私はそれに対して、「それは人間として言ったらあかん奴やろ」って思ったし、いまだにそれを許せてないんですよね。

B自身がそう言っていたり、実際にネタとして上手く活用しているのは全然いいんですよ。その経験はその人自身のモノだから。苦しんでろとか真面目に取り合えとか言えない。
でもその経験、痛みや苦しさ、寂しさを知らない他人が、テキトーに触ったり面白がったりするのは違うだろって思っていて。

 

だから。(前置きが長くなった)

この痛みを伴う物語で、
推し自身の個人的な部分、その心に触っていいのだろうか?
衆目に晒させていいのだろうか?
それを(笑うとかではなく、堪能するとかの意味で)楽しんでいいのだろうか?

とか、色々考えてしまって……。

 

ただ、村井氏自身がこの作品に出ることを決めたという事実、そして彼の役者としての力量や、きちんと役と向き合う姿を信じていたので、「観ない」という選択肢は全くありませんでした

絶対に良い物を見せてくれる、って思っていました。

 

キャスト感想 村井良大さん

ようやく本題だよ。

なんかもーめっっっっっっっっちゃ、良かった…。

 

建築現場の男の人っぽい荒くれ感! 格好いい!

ダミ声寄りの発声は、マホロバのザッパ以来かな。
怒りっぽくてガルガルしがちなのもそう。
短気な性格の造形が上手い上に、生来の喉の強さとトレーニングの成果が見事に調和していて、個性があるのに聞き苦しくなく、安定した声でした。

 

わたけしは薫と浩介の掛け合いの面白い部分が多くあり。

その中でも、村井さんの浩介は本当に上手く笑わせててすごかったです。

本当に、するっとシンプルに、普通にそのギャグを言うんですよ。全然「笑わせよう!」みたいな張りがない。だけど、言葉の速度の緩急が、客席の空気やテンポとマッチして、すっと笑いが引き出される。

初恋探しも笑いの緩急が上手かったのですが、今回改めて、「この人ギャグセンぱねぇな?!!」となりました。

 

浩介が薫に、自分が母親に捨てられた過去を語る部分もすごいよかった…。

少年浩介の寂しさ、切り捨ててどうにか生きてきたところ、そういうのが窺えた。

(ただそれだけに、毒親との仲を無理に取り持とうとしてくる薫がちょっと苦手なんですけど…)

 

そして懸案事項だった、記憶を失っていく薫と、それに寄り添う浩介の部分。

これがすごかった。

本当に、本当に悲しくて、心が壊れそうで、寂しくて。忘れられていくこと、違う誰かが彼女の中にいること、ほんの一瞬射した光が消えた後の暗さ。その寒さ。
そんな気持ちが彼からぶわっと吹き出して、ステージの縁からだぶだぶとこぼれ、客席までなみなみと満たしているような、そんな演技でした。

でもこれが、実体験から来るリアルな感情だけで構築されているかというと、決してそうではない

きちんと芝居として昇華して、人に伝えるために、体中で現していた。

 

少し、気持ちが飲まれていたのか、きっかけ待ち前に脚本を読んでしまった部分もあるんですけど、なんだか全然気にならなくて。

村井さんが以前出演していた『すうねるところ』で、薬師丸ひろ子さんの芝居をいっぱい見ました。彼女もまた、本当にそのものの感情を宿しながらも、芝居としてきちんと見せてくるという恐ろしい方で。ある意味その境地に近いような気もしました。

 

なんかもう…すごかったです

すごいよ。俳優さんだよ。何を今更って言われそうだけど。確かに俳優さんで、明確に演劇を愛し、確実に芝居を創っている、最高の俳優さんとしての村井良大さんがいた。

 

総括 推しが好きだって話

パンフレットで、村井さん自身も、今作品に対して複雑な感情を抱いたという話を書かれていて。(余談ですが、インタビュー部分の回答が他の人より大分長くて「うっ好き!」となりました)

多分私や、他の誰かが抱いたものより、ずっと大きな感情を村井さんは抱いていたんだろうなと。

でもそれを乗り越えて、ここまで素晴らしい芝居に昇華された。

ああ、演劇人として、芝居をする人としての良大さんが、本当に好きだなあと、噛みしめられた作品でした。

見ることが出来て良かったです。